【急速冷凍の成功事例】遊子漁協の取り組みと女性による地域活性化
地域でとれる魚介類の流通を広げ、漁業を活性化させようと、多くの漁業関係者の方が悩まれているのではないでしょうか。
漁業活性化の活動の一例として、漁協の取り組みをご紹介します。
「遊子漁協」では漁業の活性化のために、生産体制の強化と販売体制の強化に力を入れています。
生産体制の強化として、水産加工場で取り組んでいることが、急速冷凍機と徹底させた衛生管理システムの導入です。その結果、新鮮で品質が良く、安心・安全な魚を消費者に届けることができるようになりました。
また、遊子の魚、遊子の名前を多くの方に知ってもらうために、女性が中心となって販売強化の活動を行っています。
遊子漁協の取り組み内容や、どのような成果を上げているのかをご紹介したいと思います。
目次
遊子漁協の抱える問題と取り組み
遊子漁協とは
遊子漁業協同組合は、愛媛県宇和島市の中央部に位置する、三浦半島の北側にある遊子地区にあります。
遊子地区はリアス式海岸が広がる、魚類養殖や真珠養殖が有名な地域です。
昔はイワシ網漁が盛んでしたが、昭和35年以降に真珠養殖やハマチ養殖に移行し、養殖業が主な産業となっています。
遊子の漁場は良好な潮流で、水深が深く、海水温が適温なので養殖に向いている土地柄。
そのため、マダイ・ブリ・シマアジなどの養殖に力を入れています。
遊子漁協が抱える問題
遊子漁協では、養殖魚は天然魚に比べてイメージが悪いことがネックになっていました。
そのため、新鮮で品質が良くても、養殖ということで流通しづらいという問題を抱えていました。
漁業の経営が厳しいなか、養殖産地として有名な遊子の漁業を次世代までつなげたいという思いによって、遊子漁協では生産体制と販売体制の強化に取り組んでいます。
新鮮な養殖魚を広く流通させるため、品質の良い水産加工品を生産すること、遊子の魚を使った商品を開発・販売し、遊子のブランドを広めることを目標に活動を始めました。
急速冷凍機の導入と生産体制の強化
水産加工場で急速冷凍機を導入
遊子で育てられた魚は、隣接するマリンコープゆす加工場で浜揚げされてから、すぐに加工処理されています。その際、品質の良い魚を生産するための取り組みとして導入したのが、急速冷凍機です。
急速冷凍とは、冷凍によるダメージを最大限に防ぎ、新鮮で品質の良い状態を維持しながら凍結できる冷凍技術です。産地から離れた場所においても、とれたてと変わらない美味しさの魚を味わうことができます。
大事に育てた魚を、丁寧に三枚おろしや切り身などにフィレ加工し急速冷凍することで、より品質の良い商品の生産が可能になりました。とれたての鮮度のまま、品質の良い状態で商品を出荷することができ、産地直送の鮮魚としてブランド化させています。
徹底した安全管理による生産体制
マリンコープゆす加工場では商品の品質だけでなく、安全管理も徹底させています。
安心・安全な生産のために、食品安全マネジメント規格を認証・取得しました。
食品製造においての衛生管理システムであるHACCPと、PDCAサイクル(plan、do、check、act)による食品安全マネジメントによって、安全管理を行っています。
新鮮で安心・安全な商品を生産することで、養殖魚のイメージアップ、付加価値の向上につなげています。
遊子漁協女性部の取り組み、販売体制の強化
女性部での取り組み
遊子漁協組合の女性部は、昭和30年に発足しました。発足当時は264人いましたが、どんどん人数が減っていき、現在30人ほどのメンバーで活動を行っています。
もともとは海を守る活動や魚食普及活動などに取り組んでいましたが、地域の活性化を目指した活動はできないかと考え、新たに「食品開発部会」を発足。
遊子の郷土料理や、遊子でとれる魚を使って開発した商品を、イベントなどで試作販売しました。
商品開発とともに、遊子の名前をもっと広めたいという思いが強くなり、平成20年に「遊子の台所プロジェクト」が始まりました。
「遊子の台所プロジェクト」
「遊子の台所プロジェクト」とは、地元でとれる水産物を活用した加工品の開発や、商品の宣伝のためにキッチンカーでイベントなどを回り、対面販売する活動。
キッチンカーを使い、県内・県外の消費地に出向き、養殖魚や「遊子ブランド」のPR活動をしています。
販売している商品は、遊子でとれた食材を使った料理です。例えば、ブリの照り焼きを使った押し寿司「照りてり寿司」や、「鯛釜飯」。また、新たに「鯛釜飯の素」の開発にも成功し、道の駅やお土産売り場で販売しています。
キッチンカーでの対面販売によってお客様とじかに話す機会が増え、お客様の意見を取り入れて商品開発を行っています。
消費者の声と部会メンバーのアイディア、県や漁協、愛媛女子短期大学の学生の協力によって生まれた商品があります。
鯛飯の中に鯛の焼き身を入れて、たい焼きの形に焼き上げた「たべ鯛」。また、鯛の竜田揚げを玄米入りのバーガーで挟んだ「たべ鯛バーガー」などです。
さらに、商品のパッケージやユニフォーム、キッチンカーのデザインを統一し、「遊子ブランド」として遊子の名前を広めています。
遊子漁協の成果と地域の活性化に向けて
遊子漁協での成果
キッチンカーでの売り上げは伸びてきていて、平成20年の売り上げは30万円でしたが、平成24年には900万円に。
活動エリアも四国全域に広がり、キッチンカー来店者は平成24年に約1万人になりました。
成果が出ている要因は、対面販売によって消費者の声を聞き、意見を取り入れながら「女性目線」で商品開発をしていること。
マーケット市場において女性を狙った市場が伸びているので、女性の意見やアイディアを取り入れることは重要です。
ニーズにあった商品を作ることで、人気商品の開発へとつながっています。
パッケージなどのデザイン面においても力を入れているので、消費者に効果的にPRすることができ、販売促進につながっています。
また、キッチンカーやユニフォーム、包装のデザインを統一することで、「遊子ブランド」の宣伝効果も上がっています。
これまで養殖漁業者の顧客は、仲買人がほとんどでした。女性部会の取り組みにとって、一般消費者への購買力が高まっていることが、大きな成果と言えます。
地域の活性化に向けた今後の展望
女性部の活動はやっと軌道に乗ってきたばかりですが、この活動に参加しようとする若い女性も出てきています。女性の雇用を増やすことで女性が活躍できる場所を創出し、女性による地域の活性化が期待できます。
女性が働きやすい環境づくりのために、ここでも急速冷凍機が役立っています。販売商品の製造において、原料である魚を急速冷凍させることで、作業を効率よく回すことができ、原料ロスが出ないというメリットがあります。
原料を新鮮な状態で長期保存できるので、働く側の都合に合わせて製造できます。販売商品の品質の良さはもちろん、負担のかからない作業ができることで、活動の幅を広げることができます。
遊子の資源である水産業の活性化、遊子という地域の知名度アップに貢献し、さらに遊子への観光につなげることをさらなる目標としています。
まとめ
遊子漁協では、新鮮で美味しい養殖魚を広く流通させるための手段として、急速冷凍機を導入しました。
また、安全管理体制を整えることで、とれたての鮮度・品質の魚を安心・安全に届けることができるようになりました。
そして、遊子でとれた魚を使った商品開発、製造した商品を販売するための取り組みを、女性が中心となり行っています。
遊子の魚だけでなく「遊子」という名前を知ってもらい、地域を活性化するためにさまざまな活動をしています。
産業を盛り上げていくために、地域一丸となった事例としてぜひ参考にしてみてください。